ではこの「画期的」な目標に向けて、どのような実施体制で進めていくのでしょうか。パリ協定では、「途上国を含むすべての国が温室効果ガス削減について、自主目標を作成して、国連に提出し、国内対策を実施する義務を負う」としています。
「各国が自主的な目標を定めて、自分たちで実施する」ということだけが義務となっていますから、「各国の自主的な目標の合計で、2度よりも下げるために足りるのか?」という疑問と、「各国は自分たちが定めた目標を果たして守るのか?」という疑問が浮かびます。
前者については、「現在の各国の目標では十分ではない」のが現状です。国際エネルギー機関(IEA)が、各国がこれまでに公表している目標を合計して計算したところ、このままでは、今世紀末には少なくとも2.7度上昇してしまうとのこと。つまり、「2度目標」の達成には、各国の削減目標を引き上げる必要があるのです。
そこでパリ協定では、各国の削減目標を引き上げるため、「2020年から5年ごとに目標を見直し、世界全体で進捗を検証する」としています。
これまでのCOPの会合がうまくいかなかったのは、「温暖化は先進国の責任」「途上国の取り組みは先進国からの資金と技術がないと進められない」とする途上国と、「今後は途上国も大量に排出するから、同様に削減義務を負うべきだ」「途上国の中でも新興国は資金を拠出する側に回るべきだ」とする先進国の間で、意見が激しく対立したためでした。
今回のCOP21では、この問題で交渉自体が暗礁に乗り上げることを避けようと、途上国への資金支援は義務づける一方、具体的な拠出額は2025年までに定めるとして、パリ協定自体とは切り離す形にしました。言うまでもなく、途上国側は「具体額の明示がないと信用できない」と考えますから、「最低でも年間1000億ドル」という新たな拠出額の目標の下限は明示しました。このような形で、資金をめぐる対決を回避し、パリ協定を結ぶことができたのです。
「画期的」なパリ協定ですが、成立のためにさまざまな妥協や譲り合いが必要でした。それらは、今後の課題となってきます。先ほど「『各国が自主的な目標を定めて、自分たちで実施する』ということだけが義務となっていますから、『各国の自主的な目標の合計で、2度よりも下げるために足りるのか?』という疑問と、『各国は自分たちが定めた目標を果たして守るのか?』という疑問が出てきます」と述べた2点です。
各国が「2度目標」を考慮して、温暖化ガスの排出削減目標を、
国情に合わせて自主的につくること
「法的拘束力」は目標の設定自体には適用されるものの、
目標の達成義務はなく、罰則もないこと
これらの課題が抜け穴にならないよう、私たち一人ひとりが“自分の排出する温室効果ガスの削減”を進めつつ、今後の進展や実績を見守っていく必要があります。