パリ協定の目標達成のための重要な手段の1つとは

現在、温室効果ガス総排出量に占めるCO2の割合は、世界全体で76%、日本では90%を超えています。つまり、「温暖化対策」ほぼイコール「CO2対策」なのです。ではそのCO2はどこから出ているのか? そのほぼすべては化石燃料の燃焼から排出されています。つまり、「パリ協定が本当に意味するところは化石燃料との決別である」と前にも書いたとおりです(第4回 加速する「脱石炭」の動き)。以前は、「低炭素」と言われていましたが、今では低炭素では間に合わない、「脱炭素だ」という掛け声が大きくなっています。
このように、CO2を大きく、しかも迅速に削減していくためには何が必要でしょうか? 企業の自助努力や市民の環境意識の啓発も大事ですが、それだけに頼るわけにはいきません。それでは到底追いつかないほど、大幅かつ急速な削減が必要だからです。環境意識が低くても、温暖化を信じていなくても、みんながCO2を減らす行動を取ればよい。そう思いませんか? 一人ひとりを説得して歩くには、時間があまりにも足りない。としたら、意識や価値観を変えなくても、CO2を減らす行動を取ってもらうにはどうしたらよいのでしょうか。
そこで効果的な方策が、「CO2に価格をつける」というやり方です。「カーボン・プライシング」と言います。「CO2を出せば出すほど、それだけお金を払わなければならない」という仕組みにしておけば、温暖化を信じていなくても、環境意識が低くても、多くの人は「お金を損するのは嫌だ」と低炭素もしくは脱炭素行動を取るようになるでしょう。CO2に価格をつけるには、大きく2通りのやり方があります。1つは炭素税です。炭素を出す量に応じて税金をかけるというやり方です。もう1つは排出量取引の制度です。これは、あらかじめ国全体もしくは業界全体で排出できる量の上限を決めておき、事業者単位に割り当てます。事業者が自力で削減できない場合は、他社が削減した分を買ってくるという仕組みです。これによって、「全体として上限を守る」ことができます。

2014年5月の世界銀行の報告書では、約40カ国で、国レベルで炭素に価格をつける仕組みを導入済み、または計画中でした。排出量取引の制度も、EU、スイス、韓国、カザフスタン、ニュージーランドのほか、米国やカナダの州レベルで実施するなど、各地で広がっています。
ここで大きなインパクトをもたらすと考えられているのが中国です。中国は、2017年から全土で、排出量取引制度を導入することになっているのです。中国の排出量は、世界全体の排出量の約28%。世界の排出量の3分の1に新たに価格がつくということですから、世界の排出量取引市場にも大きな影響が出てくるでしょう。
日本では、自主参加型の排出量取引制度の試しがあったり、一部の地方自治体で導入するなどしていますが、全国レベルでの排出量取引制度の導入は実現していません。しかし、もし中国に関連する事業や企業があった場合、現在は無料のCO2排出がコストになってきます。中国で操業している日本企業にも影響が出てくるでしょう。
かつては「炭素税や排出量取引を行うと、経済的な負担になり、企業の活動が損なわれる」という声もありました。しかし、国や州などで排出量取引や炭素税を導入して数年がたち、実際に経済的にマイナスがなかったことがわかってきています。 たとえば、カナダのブリティッシュコロンビア州では、2008年に1トン当たり10カナダドルの炭素税を導入し、2012年には1トン当たり30ドルに引き上げています。炭素税の施行以来、ブリティッシュコロンビア州では、ガソリンなどの石油商品の一人あたりの消費量は18%減少していますが、経済は国内の他の州と同じペースで成長し続けています(このような状況を受け、カナダでは、2016年12月に、トルドー首相が全国規模の炭素価格づけ策を導入することを公表しています)。
またアイルランドでは、2010年、天然ガスと石油の消費に対して炭素税を設けました。2013年まで、CO2排出量は6%ほど減少しましたが、経済は成長を続けています。
アメリカでは、北東部と中部大西洋岸の9つの州で地域温室効果ガスイニシアティブ(RGGI)という排出量取引制度が導入されています。この制度が開始された2009年以降、この9州の電力部門からのCO2排出量は18%削減しています。しかし、9州全体の経済成長率は、排出量の削減がわずか4%だった残り41州を上回っているのです。

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